雑感

正月を継ぐもの―――箱根駅伝のタスキリレー

<江戸から続く現代の正月>

江戸時代の正月は年中行事の中で最も重視され、年神様を迎えるため人々は門前に門松や注連縄(しめなわ)を飾る。元日、江戸の庶民は家でゆっくり過ごし街は閑散とする。2日になると街は急に活気を取り戻す。初売りに合わせて初荷の台車が街を行き交い、火消したちがはしごに登り、その腕前を披露する出初式があった。それは町人たちにとっての晴れ舞台だった。そのような一年の無事を願う行事は、昭和の頃まで続き、僕も幼い頃は凧揚げやコマ回しで遊んだものだ

そんな正月の過ごし方は、内容こそ変わったが、基本的に今も同じだ。元日はコンビニを除いてお店は休業、初詣に行ってあとは寝正月。2日、3日は遅く起きて箱根駅伝の中継を観ながらおせちを食べる。グローバル化の現在でも東京証券取引所だけがお正月に1週間近くも休場となる

<正月の象徴としての箱根駅伝>

こうした「正月は特別な時間として共有される」という感覚は、連綿と形を変えながら現代まで続いている。その象徴が、今では「箱根駅伝」なのだ。この中継は正月の国民的行事ともいえ、日本テレビの年間視聴率の1位を叩き出すことが多く、2年前の100回大会においては全番組の年間個人視聴率1位にも輝いた

そのお化けコンテンツを観るのは楽しいけど、僕はずっと仕事で運営側にいたので、この30年ほどの正月の思い出は箱根駅伝しかない。前にも言ったが僕はスポーツ写真を撮るのはあまり好きじゃないけど、寝正月よりは忙しく働くほうが性に合っているのでいろんな担当をさせてもらった

定年退職以前は、鶴見中継所で選手のタスキリレーを撮ることが多かった。家が近かったというだけの理由だ。撮影の場所取りに朝5時に行く必要があるのでどうしても近い人に声がかかる。中継シーンは難しく思われるけど、球筋が見えないサッカーなどと違って、直線に走るランナーなので今のカメラなら比較的簡単だ

問題はひとりの撮りこぼしもなく撮り、即座に写真を送ることかな。キャプションで選手名などを間違うと大変なことになるが、フットボールとかと違ってゼッケン番号が確実に分かるので楽勝だ

<駅伝を継ぐもの>

自衛隊に協力をお願いするため駐屯地に行ったこともある。大会運営上、先導するジープ車などの出動をお願いするため駐屯地に行くのが慣例となっている。合わせて無線の傍受方法を隊員に伝えるのだがこれが緊張した。大勢の自衛隊員が直立不動で整列しているところに行って、無線は●●Hzにしてくださいというだけなのに。隊員は無線のプロフェッショナルと思うと冷や汗が止まらない

ただ、駐屯地長によると自衛隊員にとってはテレビ中継に映り、場合によっては氏名まで放送されるのでハレの舞台という話だ。協力要請に対して好意的に応えてもらい、帰り際に装甲車?に乗せてもらったりして忘れられない経験だ

あと記録係も何度かやった。中継所で陸連の役員が公式記録用紙にタスキを繋いだ時間を書き込むのだけど、それを記録センターに無線で読み上げるのだ

青山学院大が9時02分17秒に1位で通過したとすると無線で

「まるひとつ、あおやま、くじまるふたふん、ひとななびょう」

と言ってさらに確認で

「まるふた、ひとなな」

と記録センターに無線で伝えなければならない。今だとLINEでも伝達できるけど、読み上げるほうが間違いが少ない。大勢の耳で聞くので確実なのだ

なんだかなぁ、ネット全盛時代なので、ICチップを選手につければ自動で記録が集められるのに、稀に読み取りエラーとか出ると大変なので、なかなか切り替えるのは勇気がいるのだろうなぁ。今年で102回目の駅伝なのに大会運営は変わらない

担当当時、驚いたのは記録係の時計。選手が中継所に入る前に「大会基準時計」を持った役員が来て、中継所の時計と合わせる。ネットや電波で合わせば良いと思うのに機械式時計の時代から運用を変えていないのは驚きだ

<連綿と未来にタスキをつなぐ>

こうして大会関係者と接すると分かるが、箱根駅伝は「速さ」を競う大会であると同時に、「役割を受け継ぐ人間たち」の集合体でもある

テレビが面白くないと言われているが、予測不能の人間ドラマが展開される箱根駅伝だけは別格。同列に語れるのはWBC中継くらいだろうね。今後テレビ番組に活路を見出すとすればユーチューバーでは作れないこういう国民的コンテンツだろうな

今回総合優勝した青山学院大のランナーの合宿施設を取材したこともある。4年間施設で仲間と寝食をともにしながら毎日数十キロを走り込む姿を見ていると思わず応援したくなる

氷点下近い朝5時の中継所のフォトポジション、そこで長時間ランナーを待つカメラマンは大変だけど、50年前の先輩カメラマンも同様に通った道だ。その何千倍もの時間を走り込んできた選手のほんの一瞬を撮ることは、未来の後輩カメラマンにタスキをつなぐことでもある

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