オペで術野を拡大して見ることができる「サージカルルーペ」。それを装着して真剣に見つめる。大勢の人たちが輪を作り視線を注ぐ。「あっ」と時折嘆きが聞こえるものの、それ以外は静まり返っている
ここはオペ室ではなく、広い会議室。その輪の中心にいるのは医者ではない、ただのカメラマンの僕だ
その日は写真コンクールの公開審査で審査員は僕。テーブルに置かれた大量の応募作品を1枚ずつていねいに「サージカルルーペ」で確認しているのだ
「サージカルルーペ」は性能が高く、作品を隅々まで確認できる。特徴のある審査方法に会場のテンションも上がる。それ以外に使う理由は、僕が医療のドラマやアニメが大好きな「医療オタク」ということ。医学の知識はないけど、ドラマでよくやる、心臓外科や救急医療のシーンをよく覚えている。「サージカルルーペ」は中古でも5万円と高かったけど、オタクの僕はどうしても使ってみたかったのだ
そんな僕だけど、その知識はカメラマンとして結構役立っている。例えば、人体を輪切り画像で見られるMRIを取材した時、
「ドラマ『ドクターX』のこのシーンで出てきましたよね」
といって、取材の場をなごませる。さらに工学部の知識を使って
「装置に使う液体ヘリウムは、最近補充が不要になったそうですね」
と返せば
「そうそう、楽になりました」
こういう感じでスムーズに撮影が進んでいく
さらにおもしろい話があった。新座市にある故・手塚治虫さんのプロダクションスタジオで撮影した時、医療マンガの「ブラック・ジャック」で盛り上がったことがある
小学生の頃、僕はこのマンガが好きでオペのまねをしてよく遊んでいた。マンガの一幕で「ブラック・ジャック先生が手術台に寝て鏡を見ながら自分でオペをする」というシーンがあった。小学生の僕はそれをマネするだけでは満足できず、オペ風に寝ながら自分で散髪をしたことがあった。きれいな散髪に満足して次の日に登校すると、後ろの席から
「おい、トラ」
と言われる。オペごっこでは気が付かなかったが、後ろ髪がひどい「トラ刈り」になっていたのだ。しばらく「トラ」とか「タイガー」とか呼ばれたのは言うまでもない
「医療オタク」の僕はそんなネタをぶちまけながら撮影に活かしている。ただ、ネタに関しては行き詰まることも多い。それはドラマやマンガでは、「救急医療」「心臓外科」「脳血管外科」などが中心で「内科」などメインになることは少ないからだ
東京医科歯科大学と東京工業大学が統合して東京科学大学になったように、医療の世界でも工学の分野が重要視されている。ネタ不足に行き詰まる一方、工学部の僕には追い風なのかもしれないね。「サージカルルーペ」をかけて新しいネタにフォーカスするとしよう
