「ニコンをお使いですね」
よく現場で言われる。そう聞かれると、
長所「安くて性能が高い」
短所「重くて大きい」
と説明する。僕は一貫してニコンユーザーで、選んだ理由は別にある
小学校6年生の時、家の近くの小高い丘で遊んでいたら、ひとけのないヤブの中に透明の円柱状のプラスチックケースを発見する。手に取ると高級そうなものが見える。なんとニコンの銘玉と言われる「85mm F1.8」が入っていたのだ。警察に届けるも持ち主が現れることもなく、自動的にニコンユーザーになったというわけだ
そのプラケースはニコン純正で完全密封式だったので、レンズは比較的状態が良かったが、長い間放置されていたのか、うっすらクモの巣状のカビが生えていた。ニコンに「オーバーホール」で出すと1万円くらいでキレイなレンズが返ってきた。今なら最低でも3万円くらいする修理内容だけど、昔の修理はサービスの一環なので比較的安かった
それはカメラに限らず工業製品全般に当てはまる。例えば、僕が高校生の時に10万円くらいで買ったSONYのカセット録音機TC-D5が壊れ、修理に出したことがあった。購入後15年ほど経ち製造はとっくに中止されている。修理不能と思ったけど、なんとほぼ内部を総取り替えして修理費28,000円で戻ってきたのだ。そんな丁寧な対応が日本製品の信頼につながった訳だけど2000年頃を境に対応に変化が見られた。多くのメーカーの修理費は高騰し、修理対応期間が販売終了後、約7年に短縮されたのだ
2000年頃は不況という理由が大きいと思うけど、経営体質改善の一環でメーカーはサポート体制を縮小し、修理費を値上げしたのだ。その結果、家電製品などは修理するより新品に買い替えたほうが安く済むようになり、安い海外製品にシェアを奪われた分野も多い
スマホやタブレットなんてバッテリーの交換だけでも2万円ほどかかるので、買い替えてしまう人は多いものね
そういう使い捨ての反動が、EUでは見られ、2027年頃にはバッテリの交換が行いやすいような設計への義務化が予定されている。特にスマホやタブレットではもっと安価でバッテリー交換ができるようになるはずだ
修理よりも新製品を売りたいメーカーの立場も理解できる。ただ江戸時代から陶器の金継ぎ、衣服のかけつぎなど、修理するのが当たり前だった日本人にとって使い捨ては違和感がある。その考えは現在まで脈々と受け継がれる
古いカメラレンズなどの修理ができる工房は世界的に少なく、その多くが存在する日本に海外からの修理依頼が来るらしい。日本の工房の特徴は、交換部品がない場合は作ってでも修理するような対応力だ。カメラに限らず、楽器、時計、自動車、音響機器などの分野も同様だ。もともと西洋発祥の工業品の修理ができずに日本に送られてくる現状に矛盾を感じるね
ヤブの中で拾った一本のレンズは、今も防湿庫で眠っている。性能は最新設計のレンズに大きく劣るので出番はない。ただ壊れても直すという考えを共有できる工房がある限り安心だ。このレンズに性能など期待しない。僕の原点とも言えるこの一本は完動品であること、それ自体が重要なのだ